症例紹介ー膝蓋骨内方脱臼整復術ー
2024.09.14(土)
千葉県流山市江戸川台にある、21動物病院-江戸川台- 獣医師の福本です。
本日は膝蓋骨内方脱臼整復術の症例報告をさせていただきます。
膝蓋骨内方脱臼とは
膝蓋骨とは「膝のお皿」のことを指し、大腿骨遠位にある滑車溝と呼ばれる溝にはまっています。大腿四頭筋の力が脛骨へ伝わるための滑車の役割を果たし、膝をスムーズに曲げ伸ばしする際に重要な役割を果たしています。
膝蓋骨が滑車溝から外れてしまうことを膝蓋骨脱臼といいます。
膝蓋骨の脱臼状況により4段階のグレードに分類されます。
グレードⅠ:手で押すと膝蓋骨は脱臼するが、手を離すと元の位置に戻る。
グレードⅡ:手で押すか膝を曲げると脱臼し、手で押し戻すか膝を伸ばすと元の位置に戻る。
グレードⅢ:膝蓋骨は常時脱臼し、手で押すと滑車溝に戻るが手を離すと再脱臼する。
グレードⅣ:膝蓋骨は常時脱臼し、徒手整復されない。
膝蓋骨脱臼は進行していくことがあり、特に成長期に脱臼状態が続くと大腿骨や脛骨が歪み、変形性関節症や前十字靭帯断裂の発症リスクが増加します。
主な症状として痛みや患肢の挙上、重度になると膝を投げたままでの歩行(膝行(いざ)り歩行)を呈します。
治療には内科的療法(保存療法)と外科的療法(手術)があります。
内科的療法はグレードが低く臨床症状がない場合に適応となります。
段差やフローリングなどの生活環境の改善や運動制限、体重制限、炎症を抑えるためのサプリメントの継続投与を行います。痛みがある際はNSAIDs(抗炎症薬)などの痛み止めを使い安静にします。
外科的療法は高グレードの脱臼や痛みや跛行などの症状がある場合に適応となります。
筋肉・骨に対して様々なアプローチがあり、複数の手技を組み合わせることで再脱臼を防止します。
現在グレードの低い症例でも将来悪化してしまう可能性があるため、なるべく若齢での手術が望まれます。
◆症例報告
今回紹介する症例は
チワワ 1.6kg、2歳齢、去勢雄
両膝蓋骨内方脱臼グレードⅢで、歩き方に違和感を持っていました。
↑正常域(青丸部分)よりも膝蓋骨(赤矢印)が内側にずれています。
行った手技は、滑車造溝術・縫工筋解放・関節包縫縮の3つです。
↑浅い滑車溝が確認できます(矢印)
- 滑車造溝術
膝蓋骨脱臼は、本来膝蓋骨が収まるべき滑車溝は浅くなってしまっていることがあります。大腿骨の一部を削り取りそのため、滑車溝の凹みを深くする造溝術が行われます。今回はブロック状造溝という手法にて行いました。
↑造溝した滑車溝。先の写真よりも深くなっています。(矢印)
- 縫工筋解放
縫工筋は腸骨稜(腰のあたり)から膝蓋骨内側付近にまで伸びている細長い筋肉です。縫工筋は膝蓋骨を内側に引っ張る力として働くことがあるため、縫工筋と膝蓋骨を分離し、内側方面へのベクトル負荷を減らすことができます。
↑ハサミの上に乗っているのが縫工筋です。
本症例では体格の割に太く発達していました。
- 関節包縫縮
関節包は関節を包みこんでいて、他空間との仕切りとなっている膜です。膝関節の関節包は膝蓋骨とも接しているため、外側の関節包を縫い縮めて内側方面へ動きにくくしたり、内側の関節包に穴をあけてゆとりを持たせテンションを緩めることができます。
↑切開した関節包(矢印)
先ほどのレントゲン画像に比べ、膝蓋骨が正中に移動しています。
手術を行ってから1ヵ月現在で、歩様に問題や術後の合併症などもなく元気に過ごしています。
さいごに
膝蓋骨脱臼は幅広い犬種において認められる疾患であり、先天性と後天性の脱臼があります。
先天性は滑車溝が浅いなどの骨の形成異常や大腿四頭筋や配列不正に起因し、成長に伴って大腿骨や脛骨の変形が生じて脱臼を助長してしまうことでグレードを上げてしまう傾向にあります。
一方、後天性は落下や過度な運動などによる強い負荷がかかることによって脱臼が生じます。
後天性に比べて先天性の脱臼の脱臼が多く、治療をせずに経過を辿ることで脱臼のグレードが上がり、合併症が生じてしまったり、大掛かりな手術を行わなければ治らない場合もあります。
膝蓋骨脱臼についてご不明点があれば、お気軽にご相談ください。
セカンドオピニオンのご相談も受け付けております。
当院までお電話もしくはLINEにてお問い合わせいただけたらと思います。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。
執筆担当:福本
監修:初山
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