【解説】犬のクッシング症候群
2024.02.29(木)
流山市(江戸川台、初石、おおたかの森)、柏市(柏の葉、豊四季)、野田市(運河、梅郷、愛宕、清水公園、七光台)の皆様こんにちは。
千葉県流山市江戸川台にある、21動物病院-江戸川台- 獣医師の福本です。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。
今回は犬のクッシング症候群について解説をします。
クッシング症候群とは?
クッシング症候群は、副腎皮質機能亢進症とも呼ばれています。
腎臓付近にはホルモンの分泌を行っている副腎という器官があります。
副腎は皮質と髄質の二層に分かれています。皮質からはコルチゾール、アルドステロン、性ホルモンが分泌され、髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されています。
クッシング症候群は主にコルチゾールが過剰に産生されることにより生じます。
疫学
クッシング症候群は特に10歳以上の高齢犬に発症しやすい傾向がありますが、若齢でも発症することがあります。また、メスの方がオスよりも罹患率が高いとされています。
原因
クッシング症候群の原因には主に次のようなものがありますが、これらの原因が複合していることもあります。
下垂体腺腫
脳下垂体の腫瘍によって過剰にACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌され、過剰なコルチゾールの分泌を引き起こすことがあります。小型犬に多いとされています。副腎皮質機能亢進症の80~85%がこの下垂体性のものです。
機能性副腎腫瘍
副腎腫瘍自体がコルチゾールを過剰に分泌することがあります。大型犬に多いといわれていますが、小型犬にも起こることがあります。症例の10%~15%を占めるといわれています。
副腎皮質の原発性過剰刺激
副腎皮質自体が異常なまでに刺激され、過剰なコルチゾールを分泌することがあります。
医原性クッシング症候群
ステロイド薬はコルチゾールと似た働きをし、炎症や過剰な免疫を抑えるために処方されることがあります。しかし長期間や高用量の投与によりクッシング症候群を呈することがあります。
症状
クッシング症候群の症状は犬の個体差や病態の進行度によって異なりますが、以下の症状がよく見られます。
飲水量の増加
頻繁に(多量に)水を飲むことがあります。
尿量の増加
尿量も増加します。飲水量の増加と尿量の増加を合わせて多飲多と呼びます。
食欲亢進
異常に食欲が旺盛となり、非常に食べ物を求めるようになります。
体重増加
食欲亢進や代謝異常により、体重が増加することがあります。
皮膚の変化
脱毛、皮膚の色素沈着や石灰沈着、皮膚の菲薄化や傷の治りが悪くなることがあります。
筋力低下
筋肉の萎縮や筋力の低下が見られることがあります。
腹囲膨満
腹部の筋肉も菲薄化するため、内臓の重みにより腹部が膨らんで見られます。
偽筋緊張症
一般的に筋力は低下しますが、偽筋緊張症の場合は、筋量は低下せず緊張性の突っ張りを呈します。そして歩行困難や起立困難をおこし、極度にQOLを下げます。機序は不明ですが筋肉への石灰沈着によるものとも言われています。
中枢神経系の異常
不穏、攻撃性、うつ状態などの行動異常が見られることがあります。また、下垂体腫瘍が大きくなっていった場合は脳を圧迫し、様々な神経症状が認められることもあります。
診断
問診
上記のような症状の有無を確認します。多飲多尿は8~9割の確率で認められます。
血液検査
好中球増多、リンパ球・好酸球の減少、ALPの増加、脂質の増加、高ナトリウム・低カリウム血症が認められることがあります。
超音波検査
副腎のサイズを評価します。副腎皮質機能亢進症の場合は腫大することがあります。
ACTH刺激試験
合成ACTH製剤を投与し、投与前と後での血中コルチゾール値を測定します。
低用量(もしくは高用量)デキサメタゾン抑制試験
デキサメサゾンを投与し、コルチゾールの分泌抑制程度を測定します。下垂体性なのか、副腎腫瘍なのかの判別に用いることがあります。しかし、長時間を要する検査でありストレスがかかるため、検査の測定値に影響が出てしまうことがあります。
内因性ACTH測定試験
下垂体からのACTHの分泌量を測定します。下垂体性なのか、副腎腫瘍なのかの判別に用いることがあります。しかし、ACTHの体内での日内変動やストレスにより判別が困難になることもあります。
治療法
クッシング症候群の治療は症状の軽減や合併症の予防を目的として行われます。治療法には以下のようなものがあります。
薬物療法
クッシング症候群の治療には、一般的に薬物療法が使用されます。コルチゾールの過剰分泌を抑制するために、トリロスタンやミトタンなどの薬物が使用されます。
手術
副腎腫瘍が原因の場合、手術によって腫瘍を摘出することが治療の選択肢となります。
放射線療法
腫瘍に対する放射線療法が考慮されることもあります。
ステロイド投薬の漸減・休薬
服薬中のステロイド薬によりクッシング症候群となっている場合は可能であればゆっくりと用量を減らし、代替薬を用いるなど休薬していきます。
結論
クッシング症候群は犬の健康に深刻な影響を及ぼす疾患です。
糖尿病や感染症など、併発疾患を引き起こすこともあります。
定期的な健康診断による早期発見や、適切な治療を行うことが重要となります。
クッシング症候群についてご不明点やご相談があれば、当院までお電話もしくはLINEにてお問い合わせください。
セカンドオピニオンのご相談も受け付けています。お気軽にご来院ください。